何も言えない。

あれ以来、話していないから。

変人美容師がなぜ私に抱きしめたのか。

聞こうと思うけど、聞けない。

だって、絶対私のために抱いた訳じゃないことは分かってる。

「……旭さ。仕事中も変なんだよね。ため息するし、女性に対する態度が仕事なのに素に近くて……仕事にならないんだよ。聞いても答えてくれなくて……波ちゃん、旭となんかあったよね?」

倉田さんは、私の顔を伺いながら聞いてきた。

「……いや、別になにもありませんよ」

私は下に俯いて倉田さんに答えた。


「波! そんなことないでしょ! あんたも変だったよ。この頃、ペンをグルグル回してたからね」

望は腕を組んで私の隣にいたのに、いつの間にか倉田さんの隣にいて私に言った。

望と倉田さんの二人に向き合って話されると、威圧感からか私が悪いことしているみたいだ。

「え? そんな事してた?」

私は驚いた表情を浮かべて、望と倉田さんを見た。

「してた」