美容院「ベニ」は、倉田さん以外誰もいなかった。
土曜日にも関わらずに。
土曜日は、倉田さんが指名した女性を変人美容師が個別でヘアに関することを10時半から教えてもらえるのだ。
その個別は、変人美容師が女性を好きになってもらうために行われる倉田さんが
提案した仕組みなのだ。
それは、もうやってないのか?
今は、10時過ぎている。
「倉田さん、高木さんはいないわよね?」
望は、倉田さんに変人美容師がいるか聞いていた。
「言っていた通りいないよ」
そう言って私を見て、倉田さんは寂しげに笑みを浮かべていた。
「それで、今日は私に何の用で?」
「……波ちゃんさ。旭と話してる?」
「……」