その日の夜。
みいちゃんを待ちながら、私はベッドの上に体を横たえていた。
トン、トン、トン。
お風呂上がり、部屋に戻ってくるみいちゃんが階段を上がる足音を聞き付けて、体を持ち上げる。
その時、ふと、水玉模様のカーテンの隙間から見える色が変わった気がして、そちらに視線を向けた。
だって、カーテンの隙間から見えるのは…。
「お待たせー、きなこ」
窓の向こうをじっと眺めているうちに、彼女が入って来た。
もともと幼い顔立ちのみいちゃんは、お風呂上がりで頬をピンクにすると余計に幼く見える。
私は、みいちゃんの呼びかけに反応せず、カーテンの隙間を見つめた。
「きなこ?どうしたの?」
私の視線の先を見る、みいちゃん。
そのまま立ち尽くす。
「・・・カーテン、隙間があいてるね」
みいちゃん、見えてるよね?
お隣の部屋、灯りがついてるよ。
颯太くんの部屋。
みいちゃん・・・。
窓に歩み寄った彼女が、カーテンに手をかけた。
カシャン、とカーテンレールが音を立てる。
そうして、さっきまで見えていた光を遮るように、カーテンはきっちりと閉められた。
ギュっと力が入っているのか、彼女の手元あたりで、水玉模様が歪んで見える。
しばらくカーテンと向かい合い、俯いたまま。
みいちゃんは黙っていた。
もしかして、泣いてる?
私は慌てて、いつもより少し大きめの声で、にゃあ、と鳴いてみせた。
振り向いた彼女の頬を見ると、泣いてはいないようだ。
でも、私に向かって柔らかくほほ笑むその目は、今にも泣きだしそうに揺れている。
どうしたの、みいちゃん。
ベッドの上で彼女の動きを見つめる私の傍らに、彼女が腰を下ろした。
なのに。
私の頭をサラリと撫でてすぐに、サイドテーブルのリモコンに手をかけて、彼女が言った。
「そろそろ寝ようか、きなこ」
リモコンの電子音を小さく響かせて、部屋の照明が落とされる。
灯りはベッドサイドのスタンドだけになった。
えぇっ? みいちゃんったら、本当に寝るつもりなの?
今日はお話を聞かせてくれるんじゃないの?
驚いている私に気づきもしない彼女は、
「あ、携帯。充電しないと」
とひとり呟き立ち上がると、部屋の隅に置いたバッグを探りだした。
なによ。
みいちゃんがその気なら、私だって。
みいちゃんが勉強机の上に置かれたバッグの中から携帯の充電器を取り出している間に、
私も立ち上がり、ベッドサイドで伏せられたままの写真立てに、前足をかけた。
ズズズっ。
ひきずるような音に顔を上げたみいちゃん。
「きなこ?」
訝る彼女にお構いなしで、フォトフレームの隅っこに前足を乗せたまま動かし続けた結果。
写真立ては、ベッドサイドに敷かれたラグの上、鈍い音を立てて着地した。
「ちょっとヤダ、きなこ!何してんのよ!」
ラグのところに走り寄り、しゃがみこんだ彼女をベッドの上から見下ろして、私はまた一つ、鳴いてみせた。
みいちゃん、今日は私、みいちゃんのお話を聞くつもりだったのよ。
心配だけさせて何も教えてくれないなんて、許さないんだから。
怒ったような私の表情を見た彼女は、さきほど落とした写真立てを手に、
困ったように眉を下げて言った。
「わかったわよ、きなこ。話すから」
みいちゃんを待ちながら、私はベッドの上に体を横たえていた。
トン、トン、トン。
お風呂上がり、部屋に戻ってくるみいちゃんが階段を上がる足音を聞き付けて、体を持ち上げる。
その時、ふと、水玉模様のカーテンの隙間から見える色が変わった気がして、そちらに視線を向けた。
だって、カーテンの隙間から見えるのは…。
「お待たせー、きなこ」
窓の向こうをじっと眺めているうちに、彼女が入って来た。
もともと幼い顔立ちのみいちゃんは、お風呂上がりで頬をピンクにすると余計に幼く見える。
私は、みいちゃんの呼びかけに反応せず、カーテンの隙間を見つめた。
「きなこ?どうしたの?」
私の視線の先を見る、みいちゃん。
そのまま立ち尽くす。
「・・・カーテン、隙間があいてるね」
みいちゃん、見えてるよね?
お隣の部屋、灯りがついてるよ。
颯太くんの部屋。
みいちゃん・・・。
窓に歩み寄った彼女が、カーテンに手をかけた。
カシャン、とカーテンレールが音を立てる。
そうして、さっきまで見えていた光を遮るように、カーテンはきっちりと閉められた。
ギュっと力が入っているのか、彼女の手元あたりで、水玉模様が歪んで見える。
しばらくカーテンと向かい合い、俯いたまま。
みいちゃんは黙っていた。
もしかして、泣いてる?
私は慌てて、いつもより少し大きめの声で、にゃあ、と鳴いてみせた。
振り向いた彼女の頬を見ると、泣いてはいないようだ。
でも、私に向かって柔らかくほほ笑むその目は、今にも泣きだしそうに揺れている。
どうしたの、みいちゃん。
ベッドの上で彼女の動きを見つめる私の傍らに、彼女が腰を下ろした。
なのに。
私の頭をサラリと撫でてすぐに、サイドテーブルのリモコンに手をかけて、彼女が言った。
「そろそろ寝ようか、きなこ」
リモコンの電子音を小さく響かせて、部屋の照明が落とされる。
灯りはベッドサイドのスタンドだけになった。
えぇっ? みいちゃんったら、本当に寝るつもりなの?
今日はお話を聞かせてくれるんじゃないの?
驚いている私に気づきもしない彼女は、
「あ、携帯。充電しないと」
とひとり呟き立ち上がると、部屋の隅に置いたバッグを探りだした。
なによ。
みいちゃんがその気なら、私だって。
みいちゃんが勉強机の上に置かれたバッグの中から携帯の充電器を取り出している間に、
私も立ち上がり、ベッドサイドで伏せられたままの写真立てに、前足をかけた。
ズズズっ。
ひきずるような音に顔を上げたみいちゃん。
「きなこ?」
訝る彼女にお構いなしで、フォトフレームの隅っこに前足を乗せたまま動かし続けた結果。
写真立ては、ベッドサイドに敷かれたラグの上、鈍い音を立てて着地した。
「ちょっとヤダ、きなこ!何してんのよ!」
ラグのところに走り寄り、しゃがみこんだ彼女をベッドの上から見下ろして、私はまた一つ、鳴いてみせた。
みいちゃん、今日は私、みいちゃんのお話を聞くつもりだったのよ。
心配だけさせて何も教えてくれないなんて、許さないんだから。
怒ったような私の表情を見た彼女は、さきほど落とした写真立てを手に、
困ったように眉を下げて言った。
「わかったわよ、きなこ。話すから」