リビングに入ると、お母さんとみいちゃんがおしゃべりしていた。
みいちゃんは、いつも帰ってきてすぐは、お母さんと楽しそうに話す。
会社にいる変わったひとのことや、久しぶりに会った同級生のこと。
私は、その声を聞きながら、みいちゃんの座る3人がけの大きなソファの
ほどよく涼しい風があたるところに飛び乗った。
小さく鳴らした鈴の音に反応した彼女が、
お母さんと笑った顔のまま、私を見る。
「あ、きなこが来た」
ああ、いいのよ、みいちゃん、お話続けて。
私は毛づくろいしてるから。
ふと、お母さんが言った。
「あ、そういえば。隣の颯太くんだけどね」
突然お母さんの口から飛び出て来た名前に、みいちゃんが目を見開き、
私もひそかに体の動きを止めた。
すぐに毛づくろいを再開するフリをしながら、彼女の横顔を見つめる。
「・・・颯太?」
みいちゃんは、すぐに目を伏せて、必要もないのにティーカップの紅茶をスプーンでグルグル回し出した。
食事中に聞きたくないことや、聞かれたくないことに話題が及ぶと、
飲み物をスプーンやストローでかきまわしたり、手に持った何かに
触りつづけたりする。
わかりやすい、みいちゃんの癖。
「アンタは帰ってきてないのかって何度か家に来たわよ」
「え・・・なんで?」
「なんでって、知らないけど。瑞季、颯太くんと何かあったの?ケンカしたとか?」
「・・・さぁ。別に何もないけど」
「先月も来たし・・・ああ、先々月も来たわ、そういえば。何か用事があるんじゃない?
あの子も夏休みだから帰ってきてるだろうし、行ってあげなさいよ」
「あー、うん、そうだね。行ってこようかな。ねえお母さん、抹茶のプリンもあったでしょ。
食べていい?」
「ああ、あったわね。アンタが買って来てくれたヤツなんだから、好きに食べなさい」
おかあさんが言うが早いか、みいちゃんは立ち上がって冷蔵庫の方へ歩いていく。
おかあさんがその背中を見ながら、私にそっと言う。
「あれは何かあったわよねぇ、きなこ」
私は返事の代わりに、尻尾を揺らした。
抹茶プリンを片手にソファへ戻ってきたみいちゃんは、
わたしにも、おかあさんにも目を合わせないまま、黙ってテレビを見始めた。
みいちゃんは、いつも帰ってきてすぐは、お母さんと楽しそうに話す。
会社にいる変わったひとのことや、久しぶりに会った同級生のこと。
私は、その声を聞きながら、みいちゃんの座る3人がけの大きなソファの
ほどよく涼しい風があたるところに飛び乗った。
小さく鳴らした鈴の音に反応した彼女が、
お母さんと笑った顔のまま、私を見る。
「あ、きなこが来た」
ああ、いいのよ、みいちゃん、お話続けて。
私は毛づくろいしてるから。
ふと、お母さんが言った。
「あ、そういえば。隣の颯太くんだけどね」
突然お母さんの口から飛び出て来た名前に、みいちゃんが目を見開き、
私もひそかに体の動きを止めた。
すぐに毛づくろいを再開するフリをしながら、彼女の横顔を見つめる。
「・・・颯太?」
みいちゃんは、すぐに目を伏せて、必要もないのにティーカップの紅茶をスプーンでグルグル回し出した。
食事中に聞きたくないことや、聞かれたくないことに話題が及ぶと、
飲み物をスプーンやストローでかきまわしたり、手に持った何かに
触りつづけたりする。
わかりやすい、みいちゃんの癖。
「アンタは帰ってきてないのかって何度か家に来たわよ」
「え・・・なんで?」
「なんでって、知らないけど。瑞季、颯太くんと何かあったの?ケンカしたとか?」
「・・・さぁ。別に何もないけど」
「先月も来たし・・・ああ、先々月も来たわ、そういえば。何か用事があるんじゃない?
あの子も夏休みだから帰ってきてるだろうし、行ってあげなさいよ」
「あー、うん、そうだね。行ってこようかな。ねえお母さん、抹茶のプリンもあったでしょ。
食べていい?」
「ああ、あったわね。アンタが買って来てくれたヤツなんだから、好きに食べなさい」
おかあさんが言うが早いか、みいちゃんは立ち上がって冷蔵庫の方へ歩いていく。
おかあさんがその背中を見ながら、私にそっと言う。
「あれは何かあったわよねぇ、きなこ」
私は返事の代わりに、尻尾を揺らした。
抹茶プリンを片手にソファへ戻ってきたみいちゃんは、
わたしにも、おかあさんにも目を合わせないまま、黙ってテレビを見始めた。