ガチャガチャ。

両耳をピンとそばだてる。

玄関先で聞こえる音に、小さな鈴の音が混じるのをかすかに聞いた私は、
風のようにリビングを走り抜けて玄関マットの上に移動した。

あの鈴の音は、私の首についている鈴とおそろいの音。

ガチャガチャ、ガチャガチャ。

最近、お父さんがドアの鍵を二つに増やして、新しい鍵になったからだろうか。
それにしても、なかなか開かない扉に、私がだんだん首をかしげ始めたところで
パタパタとお母さんが遅れて走ってきた。

「もう、いつまでやってるの!ハイハイ、開けるから!」

上がり框に片足だけ下りると、お母さんが腕を伸ばしてカギを2つ、開ける。

薄暗い玄関に一瞬だけ光を入れて、私が待ち焦がれていた彼女が入って来た。
いつもの笑顔でニコニコ言う。

「ただいまー!もうっ、鍵が二つもあるとわかんなくてー。玄関前で汗かいちゃった」

「しかたないでしょう、防犯よ。最近は物騒なんだから」

おかえり、みいちゃん。
言葉で言えない代わりに、私は尻尾を二、三度ゆるく振って見せた。
彼女は一瞬だけ私に笑顔で、視線をよこす。

「早く入って、ゆっくりしなさい」

「あ、おかあさん。これ、ハイ。お土産。保冷剤付けてあるけど、早めに冷蔵庫に入れてね」

「あら、ありがとー。何かしら」

みいちゃんから「おみやげ」を受け取ったお母さんがウキウキとキッチンへ向かうのと同時に、彼女は
上がり框に腰を下ろすとサンダルのストラップに手をかけた。

待ち切れずに、その背中をツンツンと鼻先でつっつく。
さっきよりも視線が低くなった彼女が、クシャっとした笑顔で振り向きざま、私の鼻に
自分の鼻を近づけて言ってくれた。

「ただいま、きなこー。会いたかったよぉ」

みいちゃん、私も。

私も、みいちゃんに会いたかったよ。

サンダルを脱いだ彼女が、自分の部屋へと歩き出す。

途中、お母さんが
「あら!これ、キャッスルの『うふふプリン』じゃないの!こんなにたくさん、高かったでしょ?
アンタのお財布が大変じゃないの」

という声が聞こえた。

「だーいじょうぶですー、、いくら薄給OLでも、プリンくらいじゃお財布は痛みませんー」

大きな声で言いながら階段を上がって行くその後ろを、私もついて行った。