如月高校 2年A組 教室内
「だからあ、背水の陣でも諦めないことが大切なのよ」
授業とは関係ない、自身の体験談を得意気に語る佐々木。
真面目に聞いている生徒が半数以下なのは、安定の佐々木クオリティといったところか。
ガラガラガラッ
その時、扉を開けて飛び込んできた人物が1人。
生え際が後退し、広いデコが目立つ細身の中年男性――如月高等学校の教頭を勤める人物である。
「あら、教頭先生。どうなさったんですか?」
キョトンとする佐々木に教頭は駆け寄ると、耳打ちをした。
教頭が何を言ったのか生徒達には聞こえなかったが、佐々木の表情が驚いたものに変わったことから、何かトラブルでも起きたのだと推測する。
「……貴方達、しばらく自習していなさい。あ、だからってサボったりするんじゃないわよ!」
しっかりと生徒達に釘を刺してから、佐々木は早足で教室を出ていった。
佐々木の足音が遠ざかっていくのを確認すると、やはりと言うべきか、生徒達が騒ぎ出した。
「何かあったのかな、慌ててたけど」
「サボるなって言われてサボらない奴があるか!」
「自習じゃなくて帰らせてよー」
「コッソリ見に行かねえか?」
喧騒のなか、鈴は居眠りしている黒斗を揺さぶり起こす。
「なあなあクロちゃん……何かあったんやろか……」
「……ん、……さあ、な……」
寝起きの為か、黒斗はボンヤリとした様子で受け答えする。