「佐々木 玲二くんっちゅうてな、ウチらの担任の息子なんよ! 素直で良い子やで!」

「へー、何でソイツがよりによって月影の舎弟に?」

「…………」


“よりによって”という部分に引っ掛かりを覚える黒斗だが、無闇に口を挟んだら話が脱線するかもしれないので、黙って2人の会話を聞く。


「ウチも分からんけど、何かクロちゃんクールでカッコよくて、憧れたんやって」

「月影がクール!? ネクラの間違いじゃ……」

「黙れ死ね」


さすがの黒斗も“ネクラ”の一言は見逃せず、鋭い眼光で恵太郎を一瞥(いちべつ)すると、彼はビクリと肩を振るわせ、苦笑いで場を濁した。


「あ、そういえばケイちゃん。伸也(しんや)さんはどしたん? 姿、見いへんけど」

「兄ちゃんなら、用事があって出掛けたぜ。パーティーまでには戻るらしいけど」


2人の会話から、伸也という人物が恵太郎の兄であり、あの写真に写っていた地味な男だと黒斗は推測する。


「竹長の兄貴か……また、濃い奴じゃないだろうな……」


性格に特徴がありすぎる恵太郎の両親を見た後なので若干の不安を覚える黒斗だが、鈴はブンブンと首を振って、その考えを否定した。

 「そないなことあらへん。伸也さんは紳士的で、めっちゃ優しい良い人やで!」

「そうだぞ! 俺の兄貴は、親父やお袋と違ってマトモな人間だからな!」

「あー、分かった分かった」

2人分の擁護(ようご)を聞いて、黒斗もそれ以上は何も言わなかった。