社内恋愛禁止、といったことは聞いたことがない。
けれど店長も鈴音さんも周りに配慮をしてか、沈黙を貫いていた。
そして、その意志の固さのせいもあって、誰も二人に直接聞くことはなかった。
逆に私はその配慮が辛かった。
言ってくれた方が、それこそ吹っ切られるのに…
でも大好きな二人だからこそ、応援している私もいた。
結婚までしてほしい、と心から願っているのも事実。
矛盾しているし、わけ分からないけれど、本当のこと。
「ももてぃ!」
「…っ!」
突然、ケンに呼ばれてビクンとなった。
「ボーっとする時間は終わり!早く俺を手伝え!」
「なっ…!それが人にモノを頼む態度?」
「いいから、ホラホラ。これ片付けないと残業になっちまうぜ?」
ケンは私の方をぐいぐい押す。
「もぉ…」
さすがにお客さんはだいぶ減った。
しばらくレジを離れても問題は無さそう。
「すっかりクリスマスだなぁ。」
「あっという間だね。」
「あ~彼女欲しい!」
「ケンなんか作ろうと思えば、すぐ出来るでしょ?」
「え、なに?俺がカッコいいってこと?」
ニヤッとケンは笑った。
「まぁーた…すぐ調子乗るんだから。」
「フフン~」
ワックスで整えられたこげ茶の髪に、筋肉質な体。
クリっとした目に、高めの鼻。
ケンは昔からサッカー一筋らしく、スポーツマンでまぁまぁの容姿。
一般的にはイケメンのジャンルに入るのであろう。
…ま、私は認めていませんけど。
「店長の方が、何百倍もかっこいいから。」
「出た出た、ももてぃの店長話。」
ふーんだ。
仕事をしながら、「オジサンじゃん。」と呟くケンをまたもや私は無視、本日2度目の無視。