「ありがとうございました、またお越し下さいませ~」
しばらくボーっとしていた。
「……。」
ここで働き始めた当初から、ずっと鈴音さんの背中を追ってきた。
もちろん今も、そしてこれから先も…。
どんな仕事も完璧にこなす鈴音さん。
ストイックで、でも私たちには優しくて。
女の私でも惚れちゃうようなかっこいい大人の女性。
そんな鈴音さんが、私は大好き。
同じく店長も、仕事が出来て話が面白くて。
大学や勉強のこともちゃんと気にしてくれて、無理なシフトにはしない優しい人。
おまけに、かっこよくて紳士的で、黒縁眼鏡が切れ長の目にまたよくお似合いで、休憩後のタバコの匂いは余計に大人を感じさせる。
そんな店長を私はいつも目で追っていた。
仕事とは別。
一人の男性として。
憧れの男性として。
でもそれに気付いたときは、ただただ苦しかった。
叶うわけない。
叶わない恋なんて、辛いだけ。
そして鈴音さんに対する罪悪感。
それでも店長への想いは、なかなか吹っ切られる気配は無かった。
「はぁ…」
みんなが暗黙の了解だった。
ケンも、結城さんも石井さんも、そして私も。
店長と鈴音さんは付き合っているという、暗黙の了解……