結構の勢いで立ったお陰ではるるん達は自然とあたしたちを見る。
「晴」
志貴先輩がはるるんの腕を掴んで、店外に連れていく。
キャップに眼鏡。
一瞬では志貴先輩だとは思えまい。
はるるんは不思議そうに彼に着いていった。
一瞬だった。
ナイスだよ志貴先輩。
あたしもちゃんと仕事をしなくては。
彼女を一瞥すると、隣で優雅にブラックコーヒーを飲んでいる。
なんとも悪女らしい表情なのだろうか。
「マナミさん」
「何かしら盗聴趣味さん」
悪口かコラ。
何この人。ぶっ殺す抹殺してやる。
「約束が違う気がするんですけど」
「何のことやら」
彼女は妖しく笑ってみせた。
「優季に頼んだんだけどなぁ」
「橋本君とグルだったのは貴方だったのね、倉條美沙ちゃん」
何でこの人、あたしの名前知ってんの。
優季クンどうなってんの。
あたし、名前は言うなっと言ったはずじゃん。
計画むちゃくちゃだし、何この体たらく。
本当に、自分に呆れる。
自己嫌悪をしていても、事は進まない。
反省はまた今度にして、今あたしがすべきなのはこの人の処理だ。
「池山真奈美さん。貴方は何ではるるんを傷つけるようなことを言ったの」
はるるん?随分と可愛らしいあだ名ね、と彼女は笑う。
この人絶対魔性悪女だよ。おっかねぇよ。お母さん助けて。
「橋本君に朝霧晴と約束をして、駅前のこの喫茶店に入って、朝霧晴が何故性癖が酷くなったか聞けと言われたわ」
なら、なんで。
「あたし朝霧晴が嫌いなの」
「……………」
「アイツ、前にもヤったことがあるわ。けど、全部忘れてる」
一言言わせてください。
女って怖い。
いや、まさかまさかの理由じゃん。
よくテレビでさ、『後ろから女から刺されても知らねぇよ』とか、大袈裟だなって思ってたけど。
全然違った。
マジ等身大じゃん。
「…なら、しょうがないね」
実は優季が裏切ったのかもしれないなんて思ったあたしが馬鹿らしい。
そっけない対応に彼女は少し目を見開けながらも、くすりと大人な笑みを浮かべた。
「意外とすんなりなのね。怒鳴られる覚悟だったのに」
やだなぁ。あたしを勘違いしないでちょうだい。
「やらかしたのははるるん。はるるんの自業自得。それに、忘れられるのはツラい。分かるもんその気持ち」
マナミ先輩はこれでもかと言わんばかりに目を見開く。
「それに、計画通りじゃないけどさ、マナミさんあたしが知りたい情報知ってそうだし」
これははるるんの自業自得のこと。あたし達がその場にいたことに感謝してほしいくらいだ。
それに、あたしは手段を選ばないタイプだよ。
「後日。お話、聞かせてもらってもいいかな?」
「えぇ、いいわよ」
マナミ先輩はゆるり口角を上げた。
色気もあって羨ましい限りです。
「では、さようなら。マナミ先輩」
「さよなら、倉條さん」
彼女のとなりを過ぎるとき、ふわりと香った香水の香り。
どこか甘くて、スパイシー。
彼女の性格にぴったりだな、と思った。