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「んー、」
目を開けると最近見慣れてきた天井。
寝てた……。
そう判断するのに時間はかからなかった。
「起きたのか」
ドアには似合わないエプロンを着けた優季。
「ごめん。ご飯作らせちゃった?」
「別に」
部屋に充満するいい香り。
やっぱり、彼には料理の才能がある。
パティシエの才能もピカイチである。
口には出さないけど。
だって調子乗るもん。ウザいもん。
「うなされてたけど大丈夫か?」
「…………」
ホント抜かりないよね、あたしの幼馴染みは。
「大丈夫。少し小さい頃の夢見てた」
「…………大丈夫なのかよ」
「あー、うん。慣れた慣れた。そんなに心配してくれるのなら、今日一緒に寝てくれるの?」
「………………分かった」
「嘘だって。そこまで、優季はあたしにしなくていいよ」
さっきの夢を思い出す。
あぁ鬱陶しい。消えちゃえばいいのに。
「…そーいや、夜ご飯なに?」
少し暗い部屋の空気。それを変えたくて、話題を出す。
「和食にしてみた」
「え!ホント‼?やったっ」
「喜んでくれるなら、いつでも作る。毎日作ってやってもいいから」
「はぁ?女が料理しなくて誰がするの」
「俺だよ」
尤もです。
「さて、ご飯を頂きましょうかね」
あたしはベットから降りて、立ち上がる。
ちろりと壁にかかる時計を見ると短針は9に重なりかけていた。
「…ごめんね、優季」
「何が」
「時間」
「別に」
あぁもう。優季優しすぎるって。
窓に視線を移すと、しとしとと雨が降っていて。
もう本当に夏の入り口なんだ、と思い知らされた。