「優季クン。一緒にお話しよ?人類を捨てよう」
『お前、何言ってんだ』
「そのページ使用禁止!なんか、同じ言葉で返されるの癪だわ!」
彼の手元のボールペンを奪い取って、『お前、何言ってんだ』と大きく書かれたページにバツを書いた。
これでよし。
「優季、お話しよ!」
『いいけど』
「紙じゃなくて、声でお話しようって言ってんの」
『嫌』
「なんで!」
『面倒』
「あたしと喋るの面倒なの‼?ちょっと酷くない‼?」
『煩い』
「書くの面倒になってきたから、一言で片付けようとするの止めてくれる‼?」
書くの面倒なら、喋れよコラ。
…………………。
「うっ、……………ッ」
あたしはベットにうずくまって、痛みを耐えるようにシーツを握りしめた。
「…………ッ、」
彼は大きく目を見開き、落書き帳を投げ捨て、あたしに触れた。
その指先は、温かかった。
大丈夫、と言うことを伝えようと軽く笑えば、彼は苦しそうに苦虫を噛んだように顔をしかめた。
「美沙っ、………ッ」
いつもより、低い彼の声。というより、全然、前までの声と違う。
別人の声のようだった。
わかった。優季が喋らなかった理由が分かった。
声変わり、だからだ。
彼はあたしではなく人類を選んだわけではなかったようだ。
そっか。声変わりなんだね。あたし、結構その声も好きだよ。
だから、
「喋らせよーぜ計画成功!!さすが、優季!こうでもしなきゃ声発してくれないんだね」
うずくまるのをやめ、ベットに横になりながら、勝利のダンスを踊る。
「へへッ、ざまぁみやがれ優季クン……………って、痛い痛い痛い痛いっ!あたし病人!!!」
「クソが。マジでぶっ殺すぞお前」
声が低くなったせいか、ちょっと威圧的で怖いんですけど。
それより、頭ぐりぐりするの止めて貰えないでしょうか。
「優季、ギブギブッ」
低くなった彼の声。
初めてその声で呼ばれた時、胸がキュンと音をたてたのは秘密である。
fin.