「あ、ごめんね。急に呼んじゃって」
目の前の天使は申し訳無さげに、前髪をちろりといじった。
私はその乙女な行動に胸をキュンとさせられ、言葉に詰まる。
「え、あ、……いや。えっ、…と」
「双葉。朝霧双葉だよ」
皆知ってると思うよ。
ただ私はその朝霧双葉という人間が私なんかに話しかけてきたということに驚いているのだ。
「その本、私読みたいと思っていたんだ。読み終わったら貸してくれないかな?」
「え、…………」
「あ、ごめん。人に貸すのは嫌な感じの人だった?」
うるっと薄く涙を浮かべる彼女。
あわあわと慌て出す私。
「いやっ全然!!!!双葉ちゃんに貸せるなんて嬉しすぎる!!!!」
「……ぷっ」
あ。やってしまった。
ついつい勢い余って変なことを言ってしまった。まぁ本音だけど。
「…佐野さん面白い…っ。今度、お話しようよ」
「…っ、。…うん。私でよければ」
勿体ない。私には勿体なすぎる。
彼女には可愛くて、賢くて、レベルが近い人といるべきだと思う。
「バカだなぁ佐野さんは。私は佐野さんだから、話したいの」
「え、…………っ」
何で彼女はこんなにも優しいのだろうか。
頭も見た目も性格も。特徴もない私と話したいなんて。
「それより、佐野さん。さっきからずっと聞き耳立ててたでしょ?」
「……うん」
バレてたんだね。
「少し離れてたら聞きにくいでしょ?こっちに来よ?」
「いいの?」
「勿論。…ね、良いよね?別に」
「私は双葉ちゃんが教えてくれるのなら構わないわ」
でしょ?、と綺麗な笑みを浮かべる彼女。
私はその笑顔にノックアウト。
私は彼女の言う通り、テキストが広げられた机の近くを持ってきて、それに座った。
「えー、と。じゃあ、続きするね」
あ。
忘れてた。
「えっと、契る、の所だっけ?意味は《ピーーーー》で、」
わぁああぁぁぁぁぁあああぁあぁあぁああぁぁああああぁああぁあぁぁあぁああぁあぁ!!!!!!
実は彼女はオトナの世界の住人なのかもしれない。
そんな仮定が、私の中に生まれた。
──fin.
はるるんの妹はやっぱりはるるん。と実感するお話でした。