彼は、綿毛がなくなったタンポポを地面に捨てた。
ミルクティーの彼は、相変わらず日々の不満についてブツブツ呟いていた。
それを見かねた彼。その彼の片耳についている桜のピアスは太陽に反射した。
「アイツんとこ行くんだろ?行くぞ晴。さっさと歩くぞ」
「志貴ー、橋本くんがぁぁあ!」
「抱きついてくんな気持ち悪い。一人で歩けよ」
「志貴まで冷たいんですけど‼?ミユッキーだけは俺の味方だよねー?」
「わりぃな。俺は女の味方だ」
道を歩く男が四人。目的地に向かって、足を進める。
ここまで、遠回りしかしてこなかった。
これからは、…………なんていうことは愚問である。
───あの機械音が止まった時。
彼女がこの世から居なくなって、1ヶ月程が経った。
「そういえば、橋本くんの手紙だけ見てないんだけどーー」
「あ?見せるもんでもないだろ」
彼の手には、桜色の封筒。
丸く女の子らしい字で、『優季へ』と書かれている。
「って、俺が言うと、手紙を取り出して、読むとか性格悪っ」
「悪くない」
飴色の瞳は、悲しげにゆらりと揺れた。
彼の指先は、最後の文に触れる。
思い出すのは、愛しい彼女の笑顔。
彼は、指先で最後の文を辿る。
辿り終わった指は、離れて、また触れる。
───「俺もそうだった」
溢れた彼の声は、誰に拾われることもなく、天に昇っていく。