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「倉條のヤツ、俺と橋本が裏切るのは想定内だったのかよ。ムカつくな。なぁ橋本」


男は他人の手紙を奪い、それを読み顔をしかめた。


「ハハッ。美沙らしいな、それ」


「本当にな。ムカつくガキだ」


男は悔しそうな表情を浮かべ、飴色の瞳をした彼は目を細めた。


「ミユッキー、その手紙俺のだしー。勝手に読まないでよーエッチー」


緩い口調で、冗談っぽく胸を隠すたれ目な彼は、ミユッキーと呼ばれた彼を軽く睨んだ。


「うっせぇよ。俺、先生だぞ」


とても理不尽な言い訳に、顔をしかめた彼。


「それ、職権濫用。サイテー。志貴もなんとか、言ってよー」


ミルクティー色の髪の毛を揺らして、黒の髪の毛を中性的な彼の裾をつかんだ。


「…………タバコくせぇ」


「今、それ言うことと違うしー。てゆーか、志貴、見たー?美沙ちゃんのルーズリーフ」


「見た」

彼らの頭に思い浮かんだのは、緑のボールペンで書かれた自分自身のプロフィール。


身長やら体重、性格、血液型、癖。…と、何から何まで書かれた紙切れである。


それは藤崎さくらの字で。


彼女はこれをもとに色んな計画を練っていたんだろうと、彼らは思った。


桜は散ってしまっていた。


飴色の彼は、地面に視線を落とす。


たんぽぽの真っ白な綿毛。


彼は、それを手に取って、口元まで持っていった。


「ちょっと、橋本っちー?それ、ふぅってしないよね。そんな子供っぽいことしないよね」


飴色の瞳は冷たく彼を射抜き、言葉を溢す。


「うるさい。だから、美沙に変態だのキモいだの死ねだの言われるんだよ」


「ちょっと待って‼?いや、死ねとはまだ言われてないけどー‼?」


「…………………」


ふう、と。柔らかく、甘く、愛しいげに息を吐く。


白の綿毛は宙に舞って、天に昇っていくように飛んでいく。


「素直になればよかった」


小さい独り言。彼は言葉を溢した。


「………橋本っちー、何か言ったー?」


「黙れよ変態」


「わっ、ひどっ。俺、一応年上なんだけど」