暗い道のりを確実に一歩一歩踏みしめる。


立ち止まりたくなるけれど、立ち止まったら、もう歩けなくなるように思えて。


真っ暗の中、一人で誰も来ないのに助けを待ってしまってしまう気がして、止まれなかった。


時おり、道端にあるのは記憶のひと欠片。


さくらさんやお父さんは、こんな暗い道を一人で進んでいたのだろうか。


「………………」


意外とあたしにも思い出をたくさんあったようだ。


思い出が少なすぎて、同じ記憶がリピートされる走馬灯だったらどうしようなんて、悩んでた少し前のあたしが馬鹿らしい。


「お母さん」


きっと、彼女はあたしがいなくなれば、泣いて喜ぶに違いない。


やっと、負担がなくなると夜ご飯は赤飯を炊くに違いない。


優しい瑠菜は、それを顔を歪めながら食べている。


冷たい二人の食卓が簡単に予想できた。


「お母さん、お母さん」


ごめんなさい。ごめんなさい。


大切な人を奪って、ごめんなさい。


1年間寿命を延ばして負担をかけて、ごめんなさい。


けどね、その1年でたくさんのいい人達と出会ったし、冥土のいい土産物にしては上出来な思い出も貰った。


この1年があたしにとって、色濃くて一番幸せだった。


病室から見える世界は、淡白なセピア色。


動かず、外を窓から眺めているだけ。


厚さ数ミリ。力を込めて拳をつき出せば、なくなるガラスの窓は、分厚く見えて。


外の世界とあたしの世界を完全に遮断しているようだった。


でも、初めて一緒の世界の人が外の世界にいたと思った時があった。


死んでしまう人に会っては、帰りに桜の木の下で涙を流す。


それを何回も繰り返してしまうバカな人。


それが志貴先輩だった。


それから、彼の想い人を探して、彼女に嫉妬していた。


優季は頭を撫でたりしてくれるけれど、泣いた事なんてないから。


彼にとって、あたしはそのようなどうでもいい存在なんだろう、って彼を見て痛感した。