今度はめんどくさげに顔をしかめて、ため息をついた。
「優季くんは美沙ちゃんを一人で歩かせたくないのでしよう?なら、看護師の私が言うのは少し可笑しいけど、風邪薬渡すから、それを飲んで。そして、二人で合格発表を見に行けばいいわ。ただし、行きは私が送ってくわ。帰りだけ歩きよ」
「………………」
「………………」
「………優季くん、美沙ちゃんはいつ歩けなくなるか分からないし、それに変なところで折れないから、これくらいで妥協してあげたら、どうかしら」
「……………分かりました」
少し顔をしかめている彼。そこまで、この条件を飲めないのだろう。
ヘッ。鈴村さんに言われてやんの。だっさ。
と鼻で笑えば、ロボットはあたしをロックオン。
「美沙ちゃんはこれでいい?」
「…………………」
帰りだけ?
「行きも歩いていきた「これ以上を求めるのなら、今後の外出は認めないわよ」
職権濫用じゃないの、それ!!
酷いよオバサン!!
「………ヨロシクオネガイシマス」
と言うしかないでしょ。
「はい。じゃあ、これで交渉終了ね。美沙ちゃん達、15分後出発ね」
彼女は急いで部屋を出ていった。
残ったのはあたしと優季だけ。
ガラスを挟んで向こうの世界は、気持ちよいであろう風が吹いている。
「優季、ごめん、……」
「…………別に」
「優季の合格発表なのにね、風邪なのにね。ちょっと、意地になっちゃった」
「……………知ってる」
「優季もオコだったよね」
「あぁ」
「ごめんね」
「俺もごめん」
静かな空気に一言一言が馴染んでいく。
「優季、ごめん」
「………………それ、何のごめんだよ」
優季はこういうのだけお見通しだね。
あたしは片手を広げて、指を折って数えていく。
1つ目。
「出会ってごめんねのごめん」
2つ目。
「気を使わしちゃってごめんのごめん」
3つ目。
「優季に依存しちゃってごめんのごめん」
4つ目。
「優季の優しさにつけこんでごめんのごめん」
あと1つ。小指だけがまだ残っていて。
5個目のごめんは、
───“ ”。
曖昧に笑って5つ目のごめんを誤魔化しせば、彼は飴色の瞳に影をつけた。