「………とにかく、優季くんは家に帰って寝てちょうだい。美沙ちゃんは優季くんのお母さんにメールなり電話なりしてあげて。合格発表は、「あたし、本当に行きたい」


「……どうするの優季くん」


「行かせるわけない」


なんで、なんで、なんで、なんで、なんで。


「お願いだから、行かせてよ」


2駅電車で揺られて、徒歩数分の優季の志望校である北府高校。


行こうと思えば、行ける距離。


「鈴村さん、あたしって病状悪化したら、もうベットから出れないんですよね?」


「そうね」


「だからさ、優季。最後にあたしを歩かせて欲しいの」


「そこら辺、歩いとけばいいだろ」


「………………」


分らず屋。


「優季には、分かるわけないでしょ」


「………………」


ギロリという効果音が飴色の瞳にピッタリだった。


「優季には分からないじゃん。歩けるし走れるしスキップも出きる。それが出来なくなる気持ちなんて、分かるはずないじゃん」


飴色は一瞬揺れてマーブル色。また混ざって飴色に戻る。


「だから、違うときに歩けばいいって言ってんだろ」


「明日歩けないのかもしれないんだよ‼?能天気な優季には、分かるわけないじゃん!!」
 



「お前、バカじゃねぇの。どう考えても北府は遠いだろーが。よく考えろ」




ツーと冷や汗が背中をなぞる。


こういう優季、大嫌い。本当に大嫌い。


バカみたいに威張り散らして怒ればいいのに、静かに怒って威圧を掛ける。


服従しろ、と言わんばかりの飴色を向けてくるのが大嫌いだ。


「………優季なんか大嫌い。あたしのこと、本当は分かってない、んじゃない、の……?」


「………ッ、」


優季なんて嫌い嫌い嫌い嫌い。


「優季があたしの体を思って言ってくれてるって分かってるもんッ。けどっ、……あたしは、っ」


歪む視界は、白くぼやける。




「……………美沙ちゃん、思ってもないこと言おうとするのは止めなさい」




あたしの紡ぐ言葉を止めたのは、優季でなくて彼女で。


あまり動かさない表情筋を動かしていて、少し眉を下げていた。