「…………」
無視とは酷くないですか先輩。
ミス優しい子のあたしでもハートが壊れちゃいそうだよ。
「先輩」
「なんだよ」
志貴先輩って、空気の変わりに敏感。鋭い。勘がいい。
あたしはそういうの嫌いじゃない。むしろ好きな方。
静かな空気に吹く春の風は、桃色の花びらを舞い上げる。
とても、綺麗。
「桜。そんなに好きなんですか?」
舞い上がっては、落ちて行くその桃色に哀愁漂う目で見ている彼に問う。
桜。桜。サクラ。さくら。
そんなに好きなんですか?
「……………お前には関係ない」
桃色の吹雪に舞い上げられることなく、落ちる彼の小さな答え。
なんて、可哀想な人なのだろうか。
「お前じゃないです。美沙です」
「どうでもいい。お前、さっさと行け」
「それは出来ません。先輩が教室に行くまでここにいます」
桜の木の上からあたしを睨む彼は、無駄に綺麗な顔立ちをしていて、なかなかの迫力。
そんな彼に、ニッコリ笑みを向けた。
それに比例して、彼はぐっと眉を寄せる。
「お前ウザイ」
「……あたしは好きですよ?今もキュンキュン胸がときめいています」
「嘘くさ…」
「あたしのLOVEが嘘臭いですか?それは先輩にはLOVEが足りたいからですよ」
「……………………」
「ふふふ。先輩に口喧嘩勝っちゃった…さて、気分も良くなったことだし授業に出ましょ?」
「俺は気分ワリーから」
「先輩の事情なんて知りませんよ。早く木から降りてください」
と言ったのに、彼はスルー。
イヤホンを耳につけて音楽を聞き出した。
ふふふ。
もうその昨日のパターンは食わないのだよ。
人間は日々学んでいるのだ。
あたしは鞄から、このために100均で買ってきたメガホンを手に取る。
メガホンを口に持ってきて、大きく息を吸い込んだ。
「志貴せんぱーーーーーーーーーいっ‼‼無視は酷いですーーーーーーーーーーーーーッ‼‼」
あたしは力一杯叫んだ。
メガホン+ビックボイス。
イヤホン越しにでも聞こえるのは調査済み。
「…………」
無視ですか。無視なんですか。
あたしゃあ、めげねぇぜ?
あたしのあだ名はなんつったって、頑固親父っすよ?
諦めるなんて文字、あたしの辞書にはないのだよ。
だから、もう一度っ!
「志貴せんぱーーーーーーーーーいっ‼‼無視は酷いですーーーーーーーーーーーーーッ‼‼」
「……………………」
「志貴せんぱーーーーーーーーーいっ‼‼無視は酷いですーーーーーーーーーーーーーッ‼‼」
「…………………………」
「志貴せんぱーーーーーーーーーいっ‼‼無視は酷いですーーーーーーーーーーーーーッ‼‼」
「…………………………………………」
「志貴せんぱーーーーーーーーーいっ‼‼無視は酷いですーーーーーーーーーーーーーッ‼‼」
「…………………………………………」
「志貴せんぱーーーーーーーーーいっ‼‼無視は酷いですーーーーーーーーーーーーーッ‼‼」
「うるせぇよ」
うしっ。粘り勝ち。