「お前、そういうの演技なわけ?」


「はい、…?」


「すっとぼける、ソレ」


ソレ。と視線で指されたのは、あたしの顔。


何が言いたいの、ほんと。


「何がすっとぼけてるんですか」


「全部だよ」


「はい‼?どこが!」


「…………ソレ。分かってないフリ」


「フリ?何の事?」


「…………………」


フリなんてした覚えないけど。


「お前、自分のこと、無駄にアピールしてくるくせに、自分のことクソだとか思ってんだろ」


さすがにそこまでは思ってないです。


クソて何、クソて。


ちょっと酷過ぎじゃない?


せめて、生き物にして欲しいのだけど。


レッツトイレより、レッツゴキちゃんの方がよっぽどましなんですけど。


「……………志貴先輩が何言いたいのかよく分かんないんですけど、そこまであたしは自分を捨ててませんので。てか、ちょっと息苦しいので、手、離してください」


「……………」


なかなか離してくれない手。


これ借り物なのに、こんなに掴まれたらしわくちゃだわ。


鈴村さん、激オコだよ!!


家政婦なんてやめて、殺し屋になってテレビにカムバックしてくるわ!


「志貴先輩、さすがに離してください。殺されたくはないんです」


「……………チッ」


舌打ちぃぃぃいいい‼?


何故‼?why‼?


ゴミ箱に鼻水ティッシュを捨てるが如く襟を離してくれた彼。


春からこの扱いは変わっていない。


「美沙ちゃーん、忘れなくてもいいんじゃないのー?ほら、メールとかアプリとかで最近は話せるよ?」


「……やだよ。めんどくさい。あたし、スマホとかあまり弄りたくない」


「薄情!美沙ちゃんは、もっと情に深い子だと思ってたのにー」


「勝手に思ってて。はるるんの相手するの疲れるから嫌いなの」


ひっどー、とヘラヘラ笑いながら言う彼。


この人はどこからが本気でどこからが嘘なのかよく分からなかった。


けど、それを考えるのも今日で終わり。



「あたし、言いたいこと全部言えたから、もう帰るね」