前みたいに戻ったみたい。
ここの制服のブレザーを着て、彼らと笑っていた頃に戻ったみたいで、楽しい。
このままずっと。そのままで。
なんて、望んでしまう。
「志貴先輩、はるるん」
自分でも真摯な声が出たと思う。
「今日はね、二人とお喋りしたくて来たんだ」
ドクリ。何故かこのタイミングで嫌な心臓の音がした気がした。
「最後に言い忘れてたの」
どうしても、大切なことを言い忘れてた。
「もう、あたしはここから居なくなるから、会えない。忘れて欲しいの」
──お願いだから、忘れないで。
本心が出てきそうで、口をきゅっと結んだ。
「お前、…それ、どういう意味だよ」
「そのまんまです。あたし、この町から去るんですよ」
「何で、そんな急に、…」
「はるるん達は、知ってるでしょ?あたしの家庭内事情」
「………………」
「それ。家庭内事情によって、どっか遠くに行くの」
二人はおしのように黙った。
「……美沙ちゃんってさ、それだけを言いにここに来たの、?」
「うん」
「何で?」
「……そりゃあ、1年間ストーカーしてた奴が急に居なくなると、好きとか嫌いとか関係なく気掛かりでしょう?あたしは、受験勉強の邪魔したくないの」
「なに、それ、…………」
ぎりぎりとはるるんの拳が強く握られる。
「はるるん、それ以上握ると、血が……、」
「ふざけんな」
志貴先輩がこちらを睨みながら一つ言葉を落とした。
長い足を使って、大股でこちらに向かって歩いてくる。
なんか、怖い。
彼の瞳に宿っているのは、憤怒。怒りだ。
1歩交代したが、彼の1歩とは比べ物にならない程小さい。
ぐいっ、と彼の手は乱雑にセーラー服特有の大きな襟を掴む。
急に胸ぐらを掴まれても、どう反応すればいいのか悩むんですけど。
彼は睨んでいたので、あたしも一応、彼を睨んでおいた。