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「うぅ、…………っ」


彼女が声を殺すように泣いているのを初めて見たのは、1年ほど前の事だった。


母親に捨てられても、妹に会えなくなっても、綺麗に一筋涙を流すだけで。


「………………っ、」


こんなに声を殺すように苦しそうに泣いているのは初めて見たのだ。


夜なのに窓は開けてあって、そこから満月の光が差して、部屋は妙に明るかった。


照らし出される彼女は、いつもより美しかった。



「…………怖い、…よ。やだ。…もう、やだ………っ」




溢れたその言葉に渡す言葉もない。


「………………」


彼女の“恐怖”を取り除くなんて、俺には到底無理だ。


ぴゅうっと風が吹く。


カーテンが膨らんだ。


「み、……………さ」


掠れて出てきた自分の声。


「ごめんね、優季」


優しく笑う彼女は、悲しそうだった。


「こんなの、優季に言っても無駄なのに」



───俺には何も出来ない。



遠回しにそう言われた気がした。


「優季、好きだよ。ありがとね」



────もう少しでお別れ。



それを突きつけられた気がした。


手を伸ばして、彼女に触れようとするとパチンと泡が弾いたように意識が覚醒する。


目の前に広がってるのは、真っ白なシーツ。


「ん、」


体を起こすと、ニコニコ笑う彼女。


「起きた?優季、爆睡してたよ。なかなかの寝顔の可愛さだったから、ついつい連写しちゃった」


彼女が起きるのを待っていたのに、自分が寝てしまったようだ。


体を起こした。


「消せよ」


「えー、やだ。ロック画面に設定しちゃったー」


スマホをドヤ顔で突きつけられる。


寝ている自分と、その隣で俺の頬をツンツンつついてる彼女が写っていて。



「………………あとで、それを送ってくれるなら許す」





ついつい彼女の愛らしさに負けてしまう。