そんなことに気付いても、それが叶うなんていう甘い現実はなくて。


そこにあるのは、ただただビターな厳しい現実。


もう、きっと、これを覆そうだなんて無理に等しい。というか、もう無理だ。


刻々と時間は進んでいき、刻々と現実が近付いている。


その近付く現実に“怖い”と思ってしまうのは、きっと愛着が残っているからだ。


コンコン。


扉がノックされた。


ちらり時計を見ると、7時30分。


優季が来る時間だ。


「どーぞ。優季、入って入ってー」


スライドされる扉。


そこには、飴色の瞳をした彼がやっぱりいて。


「優季。おはよう」


「あぁ」


どうしようもなく、涙が溢れてきそうだ。


「優季。昨日、寝てて、ごめんね」


本当は起きてたけど。


「別に。悪かったな、寝てるときに来て」


「そんなん、どうでもいいよ。もうウェルカムだからビバウェルカムだから」


彼の瞳はユラリユラリさ迷っている。


いつも綺麗だと思う飴色の瞳に、初めて危うさを感じた。


あたしは、彼に何を残していけるのだろうか。


ふと、そんなことを考えた。


「優季、今日、小テスト何があるの?」


「数学と漢文と、……英単語」


多いなオイ。


そりゃ、テンションもいつもより低いわ。


「頑張ってね。分かんなかったら、教えてあげる」


挑発的に彼に言うと、彼は顔をしかめる。


「結構だっつの」


鼻で笑うように出てきた彼の言葉は、あたし一人には広いこの部屋に吸い込まれて消えていく。


「あっそ。精々悩んで苦しんどいて」


皮肉を言えば、



「んなわけないだろ」



前まで返ってきた喧嘩言葉は何処にもない。


どんどん、日常が壊れていく。


どんどん、あたしが彼を侵食していく。


嫌なのに。嫌なのに。


だけど、


「優季。時間だよ遅刻しちゃうよ。ばいばい」


「あぁ」




彼を壊してでも、自分の幸せを取ってしまう。


そんなあたしを、彼は許してくれるのだろうか。