そんな心の雄叫びも彼には届かず。


「…………………」


綺麗に布団をかけてくれた彼。


もちろん、正式な寝方で顔以外は全てお布団を被ってる。


てゆーか、正式な寝方って何。


仰向けで、手は腹の上で、頭は枕の上、お布団は肩まで被りましょう。


それが正式な寝方ですかさいですか。


お願いだから、頭までお布団を被せてください切実に。


寝てるフリしてんのに、顔見られてるとか、もう地獄だから。死にそうだから。


バレるかバレないかヒヤヒヤして、手に冷や汗を握る。


「………美沙」


「………………………」


あたしは置物。優季の家に置いてあるタヌキの置物。置物置物置物。ビバ置物。


キィとパイプ椅子が軋む音がした。


「…………今日、栗田さんに美沙はどうしたのか、聞かれた。転校したって言ったら、泣いた。しかも、それを先輩らにも聞かれたし、お前のスマホ、夜煩いだろうな」


独り言を言うように、彼は今日の出来事を話しだす。


それは静かで、ピアノの鍵盤をポーンと鳴らすようだった。


あたしは、表情を変えずにそれを聞く。


分かってることだった。


果奈も、志貴先輩も、はるるんのことも。


「…………」


「てゆうか、あと2ヶ月だな。俺は、…………」


俺は、……何?優季が何?


急に止まった彼の言葉。


その続きを聞き逃しまい耳を尖らせる。






「俺は、お前ともっと居たかった」






その言葉は禁句だった。


彼はあたしと居るとき、その言葉を口には出さなかった。


本当は、さっさと別れたかったのかも。なんて思うほど、そんな素振りも見せなかった。


本当にごめん。ごめんなさい。


涙が出てきそうで、寝相のフリをして、頭まで布団を被る。


ばかばかばかばかバカ優季。


なんで、そんなこと言うの。もう手遅れだというのに。


「美沙」


「………………」


涙がシーツを濡らす。


ぽたぽたぽたぽた涙は生暖かい。


こんな顔見られたくない。


ぎゅっと目を固く閉じさせると、また布団がめくられる。


「……泣いてるし」


優季は呆れているような、けれど優しい口調で呟く。


また掛け直された布団。


あたしの涙を親指で拭き取ってくれる彼は、どんな表情をしているのだろうか。