side.S
「志貴ー、美沙ちゃんのとこ、寄らないー?」
LHRが終わり放課後になった今、晴が言った。
「クラスまで行くまでの過干渉はしねぇって言ってただろ」
「もう志貴ったら、お堅いー。そもそも、冬休み、美沙ちゃんの家に遊びましょーしに行ったじゃーん」
「………………」
「それに、美沙ちゃんをまた捕まえなきゃ」
「は?」
「だから、きっと美沙ちゃん、俺らから逃走してるからねー。もう橋本クンの引っ付き虫になってるからね」
「……………」
んだそれ。
少しこれからが不安になって、耳たぶを触る。
触れて安心する桜のピアスは、そこにはなくて、また彼女を思い出す。
────『志貴先輩、さくらさんを殺してしまった同士、仲良くしましょうよ』
殺してしまった同士。
そう言われた途端、彼女は俺と同じなんだな、って思った。
“さくらに毒されてしまった人”と。
さくらは、伝播される波のように朧気。
けれど、彼女の纏う空気は透明で釘付けにされる。
そして、彼女に毒される。
彼女のために何かをしたいと思ってしまう。
そんなさくらとアイツ。
アイツはさくらのように毒は持ってはない。
けれど、彼女を見ていると思うのは、壊れそう。
纏う空気は似ている。澄んで綺麗な透明。
けれど、その成分は違う。
さくらは“危うさ”。
アイツは“覚悟”。
だから、壊れていきそうなのだ。
「志貴」
「………………」
「行かない?今回ばかりはちょっとヤバめだと思うんだよねー」
晴が苦笑いする。
ほんと、コイツ何しやがったんだよ。
ふぅと溜め息を吐いた。
「……………行くぞ」
「さすが志貴。分かってるーー」
彼はヘラヘラせせら笑う。
彼女は、いつの間にこんなに俺らにとって大切な存在になったのだろうか。
“好き”
その2文字は、事実であって本心。
けれど、それは伝えてはいけない爆発ボタン。