「………なに、それ」


ハッと自分でも驚くような渇いた声が出る。


「受け取れよ」


「あたし、2つ欲しかったんですけど」


「片耳ピアスもオシャレだろーが」


「………」


あぁもう。ばっかみたいじゃないか。



「しょうがないですね。貰ってあげますよ」


ヒンヤリとしたそれを手に取って、ギュッと握る。


「…………………」


「……お前、最近泣きすぎ」


志貴先輩が少し呆れたように、ものを言う。


「泣いてない、です………。汗、なん、で、す、……………っ」


頬に伝わる生暖かい水は何?


ねぇ、さくらさん。苦しいよ。


すんごく苦しいよ。


さくらさんは、こんな苦しい思いをして、この人とお別れしたのだろうか。


そう思うと、涙が机を濡らす。


「………………うぅ、…」


嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。


そんな思い、したくない。


望んでない。要らない。


消えてよ。無くなってよ。


「志貴先輩、あたし、苦し、…い、です、…………というのは、冗談です。ごめんなさ、い、ごめんなさい」


本音が漏れるところだった。


危ない危ない。


「……………」


「……あはは。ごめんなさいって。さっきのは気のせいです。ちょっと、感情が高ぶってました」


作った笑みで、彼を誤魔化せるわけもなく、彼はいつにもなく不機嫌。


「…………ここ、出るぞ。俺がお前を泣かしてるみたいで居心地悪い」


言いながら席を立つ彼の前にはお皿のみ。


いつの間にイチゴタルトを食べきったんだいこの人。


ブラックホール並みに腹が謎。


「行きましょっか」


一方あたしは、パンケーキの4分の1程度残してあるくせに、カフェオレは完食。


こんな気持ちで食べるのもアレだし、そもそもこれ食べてる自体、優季に怒られるのは決定だし。


ブツブツブツと、心の中で言い訳を言いながら。





パンケーキ4分の1に少し未練を残して、店を出た。