「……………なんで、お前が持つんだよ」
彼は睨みながら、あたしに聞く。
「だって、さくらさんの生きる意味を奪ってしまったのはあたしだから。もしあの人に未練があれば、這いつくばってでも生きますよ」
全てあたしのせいにすればいい。
志貴先輩は、もう彼女を忘れてもいい。
青春の中のたった5ページぐらいの存在にしておけばいい。
「ねぇ志貴先輩。その桜のピアス、ください」
お願いだから、もう忘れて欲しいの。
さくらさんのことも、あたしのことも。
彼の持つフォークが止まる。
その先に刺さっているイチゴは、真っ赤な色をしている。
それから、暫くたっただろう。
彼の弾き出した答えは、
「渡さねぇよ」
気に食わない答えだった。
「何でですか」
なんで、そんな答えになったの。
あの人の人生を煌めかせたのは志貴先輩。
あの人を殺したのはあたし。
これ以外にどういう答えがあるというのだろうか。
「…………確かにお前が言ったことは一理あるかもしれないな」
懐かしむように目を細めた彼は、ため息を吐くように言葉を吐き出す。
「……けど、それが本当なら。お前も価値あったんじゃねぇの?」
「え、…………」
「さくらだって、馬鹿じゃねぇよ。どうでもいいやつに生きる意味を譲るわけがないだろ」
「…………そ、れじゃあ」
恐る恐る聞くと返ってきたのは初めて見る彼のはにかんだ笑み。
「お互い様っつーことだ」
コトリと机に置かれたのは、桜のピアスの片割れ。
もう1つは、いつもの所定地でキラキラと光っている。