「志貴先輩って、マゾヒスト?」


「殺すぞ」


「フォークをこっちに向けないで下さいよ。怖い怖い。」


「……………チッ」


舌打ちも怖いってば。


「志貴先輩、」


あと少し。あと一押し。


「ぶっちゃけ言うと、志貴先輩と付き合っていなければ、もっと長生きしてたでしょう。聞いた限り、志貴先輩のためになかなかやらかしてたみたいですし」


体育祭で大声で、志貴先輩の応援してたり。


文化祭で羽目を外したり。


「けど、さくらさんは何故それをやったか分かりますか?」


フォークに突き刺された真っ赤な真っ赤なイチゴ。


「………………」




「自分の寿命と引き換えるほどの価値が、志貴先輩には合ったからです」




カランと彼の持っていたフォークが落ちる。


パチンと水を弾いたように見開く彼の黒い瞳は、水面のようにゆらゆら揺れていた。


「さくらさんは、きっと幸せですよ。むしろ、あの人は志貴先輩至上主義なんですから、志貴先輩が幸せにならなければ、幸せじゃありません」


「それに、志貴先輩に会っていなかったら、さくらさんは生きる意味自体持っていなかったと思いますよ」


意味なく長く生きるより、意味あって短く生きる方が絶対いい。


だから、



「その桜のピアス、あたしに譲ってくれませんか?」




その戒めは、彼女から生きる意味を取ってしまったあたしが受けるべきもの。


彼がその戒めを持つのは、お門違いだ。