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「ゆーうき」
「何」
「ありがとね」
バタン、と扉を閉めた。
見上げると、“校長室”というプレートが目に写った。
「いやー。もうこれで終わりだなんて、呆気ないね、1年も」
「普通の1年だっただろ」
「優季にはそうだったかもしれないけど!あたしには違うの!優季だって、あたしとこんなにいれて嬉しかったでしょ‼?」
「ハァアッ‼?‼?」
「ちょ、急に発狂しないでよ」
優季を見ると、いつもの謎のタイミングの赤面をしていて、耳まで真っ赤だ。
「優季クン。君も案外可愛いね」
うさ耳とか、似合っちゃいそうだよユー。
もちろん、猫耳も可だからね。
あ、でもウサギが見たい……。
「優季クン、1回バニーガールとかしてみない?」
「美沙チャン。ぶっ殺されたいのか」
「やだなぁー、ジョークだよ赤面お兄さん」
「………………」
「ねぇ優季」
「……んだよ」
優季はうざったそうに、こちらに目を向けた。
「最後だから。会ってきていい?」
「…どんだけ最後を延長してんだよ」
「細かいことは気にしちゃダメですー」
「…………行けば」
その言葉をどれだけ待っていたことか。
心の中で大きくガッツポーズを決めた。
「じゃあ、早く下駄箱行こっ」
「アイツらの教室に行かないのかよ」
「んー?きっと、あの人達は生徒玄関の前にいるよ。はるるんなら、きっとそこで待ち伏せしてるよ」
はるるんは、もう分かってるから。
あんだけ好き好き連呼してたくせに、好きじゃなかったことも。
あたしがさくらさんのために志貴先輩に近づいたってことも。
さくらさんのお願いがどんなものだってことも。
──『志貴くんに私を忘れさせて』
だから、志貴先輩にあたしのことを好きになってもらおうと思った。
簡単じゃないことくらい分かってた。
ほら。現に失敗に終わってるし。
可愛くもないし、可愛くも出来ないし、一か八かでやったのだから、仕方ない。
だからと言って、諦めたくなかった。
さくらさんの願いは絶対に叶えてあげたかった。