彼女の病室に通って、その帰りに桜の木に通う。
そんな毎日が繰り返されていたら、もう1年生が終わろうとしていた。
そんなとき、事態は急変する。
───志貴くん。ごめんね。あたし、もう長くないんだって。
彼女がそう言った瞬間、何かが崩れていくような気がした。
彼女の宣言通り、数日後危ない状態に陥って。
さくらが居ない世界にされるのを恐れる。
彼女は、一命をとりとめた。
が、彼女曰く次はないらしい。
本当に居なくなる。さくらが消える。なんで、さくらがいなくならなきゃいけない?なんで、さくらが。
違う人だったら良かったのに。
こんなの最低な考えだ。
確か、3月の終わりの頃だった。
本当に彼女がいなくなる、と胸を鷲掴みにされたような気持ちになったのは。
始まりは、さくらの担当をしている看護師からの電話。
『さくらちゃんが、さくらちゃんがっ、いなくなったの!槻倉くんは、さくらちゃんといる‼?』
焦った彼女の声と、電話から聞こえる足音。
あぁ、そうだ。
あの日は、北府高校の合格発表だった。
そのため学校は休みで、俺は朝からさくらのお見舞いに行っていたのだ。
あの時は今でも鮮明に覚えている。
今、探さなきゃもう彼女に会えない気がして。
あの声で。あの笑顔で。
もう自分の名前を呼んでくれないかもしれない。
春になりかけているのに、汗だくになって、息を切らして。
探し求めた彼女は、病院本棟から少し離れた桜並木の下ベンチに座って、涙を流していた。
『さくら』
今でも、覚えている。
『志貴くん』
彼女との初めてのキスは、涙の味がして、しょっぱかった。