「志貴ー」


「…………………」


キョロキョロ、キョロキョロ。出てくる1年を見る。


が、彼女はいない。


「晴。本当にいねぇんじゃねぇの?」


「大丈夫だってー。どーんと待っときなってー」


何故、彼はこんなに余裕なのだろうか。


アイツが1回離れていったとき、引き戻したのは晴だろ。


「…………無責任」


「やだなぁ、無責任じゃないってばー。志貴くん、睨まないでってー」


「……………………」


「多分、もうちょっとだよ。待ってよ待ってよ」


「お前、もしかして、アイツと連絡取ってんのか?」


「取ってないよーん。おとといくらいメールしたら、美沙ちゃんのメアドで橋本クンから返信来たしー」


……………………。


「もう美沙ちゃんと橋本クンの関係ってなんだろって、思うよねー。もうカップルの域越えて、夫婦だよねー」


「そーだな」


アイツの家の合鍵持ってるようだし、一緒に学校行ってるし。


いつも朝ご飯も夜ご飯も一緒に食べてるらしいし、結構な割合でアイツの家に泊まってくらしいし。


そもそも、幼馴染みらしいし。


そう思うと、キュッと喉の奥が締まった気がしたが、気付かないフリ。


気付かないフリをすると、脳裏を掠めるのは、長い綺麗な黒い髪を靡かす彼女。


彼女はいつも、ふわりと笑って。



────志貴くんっ。




花を咲かせたような笑顔で、俺を呼ぶ。


そんな彼女が、可愛くて、愛おしくて、触れたくて、隣にいたくて。




─────さくら。




彼女の手に、自分の手を重ねた。


けれど、彼女に残された時間はもう少なかった。


冬になると彼女は学校に来なくなり、俺は学校帰りに毎日病院に行くのが日課になっていた。


日に日に弱っていく彼女を見るのは辛くて。


自分の無力さを突きつけられたようで、苦しかった。


無理に笑う彼女を見るのが辛くて。



どこに自分の心を溢せばよいか分からなくて、病院の裏にある桜の木の下で泣いていたのだ。