「…んで、志貴先輩。いつまで廊下で立ち話してるんですか?寒いし、さっさと話あるなら言ってください」
残念イケメンのトップを目指すはるるんを視界の隅に移さして、志貴先輩を見る。
「…………あぁ」
「なんか、歯切れ悪くないですか?」
「…………気のせいだろ」
やましいことがあるのか?あるんでしょ。
ベットの下にエロ本を隠している並にヤバイことでしょ。
「ちょっとー、志貴ー。頑張ってー」
「晴黙れ」
「俺、応援しなかった‼?」
あぁもう見てられない。はるるんが可哀想で見てられない。
「はるるん、頑張って……」
「美沙ちゃんに応援されるの嬉しいけど複雑ー」
あら。案外、繊細な子でしたの?
下半身がずぼらですから、中身もずぼらだと思っておりましたわ。おほほほほ。
「……んで、志貴先輩。用件は?」
「……………」
渋った顔をした彼は、数秒してから決意を固めたのか、吹っ切れたような顔になった。
一体彼の中で何が起こったのだろうか。
とても謎である。
「…………これ、受けとれ」
志貴先輩の少し照れているような声が鼓膜を揺する。
それと、同じようにあたしの視界が揺らぎだす。
涙腺が少し緩ん気がした。
だって、不意討ちだ。こんなのズルい。
「…………これ、なんですか…?」
期待を込めたその言葉は、乾燥した空気に溶けて消えていく。
ぱちん、ぱちん。まるで、それは泡のようだ。
「誕生日プレゼント、」
たった一言でも、あたしの心を満たすのは十分なもので、出てくるそれを堪えるように唇を噛み締めた。