side.Y
「橋本。倉條が居ねぇじゃねぇか」
白衣を着た男は、イライラしたように舌打ちをした。
「今日は休みだ」
今、彼女は多分、墓参りをしているころだろう。
こんな事情を目の前の男に言うつもりは毛頭ないが。
「次の授業、移動だから。もういく」
「おい、待てよ」
「俺は美沙じゃないから、サボったら成績表に傷が付くんだよ。離せ」
睨むが彼には効かないようで。
へらり笑みを浮かべた。
実はドMなのかそうなのか。
「今後について話してたいんだよ。橋本、大好きな倉條チャン絡みだぜ?」
彼は挑発的な御託を並べていく。
このムカつく男はそういう奴だった。御幸奏斗というムカつく男はそういう奴だぅた。
「分かった」
美沙。その言葉にこんなにも簡単に釣られるのは、きっといつか黒歴史に追加されるだろう。
「移動しようじゃねぇか」
クイッと顎で、向かいの校舎を指す。
保健室のことを指しているのだろう。
「…………分かった」
彼の後をついていく。
次の授業は生物だし。なんとかなるっちゃなんとかなる。
「…………………」
晴天の今日の空は、青い絵の具をぶちまけたように一色に染まっている。
けれど、彼女の今日の空は灰色に染まって白しかなかったかの景色で止まっている。
今日は、美沙の父親の命日の翌日だ。