志貴先輩ポケモン説は、ないようだ。


少し残念。


小さい頃夢描いていたリアルポケモンマスターにはようだ。


「お前」


ブランコを漕ぐのをやめ、動きを止めた志貴先輩。


数十センチほど離れている隣のブランコに座る彼の瞳。


黒。黒曜石のような綺麗な黒。


「……どうしたんですか?」


「……なんで、居なくなろうとした?」


何でここでそんなことを聞くのだろうか。


前を向き直して、ベンチを見るとはるるんはいなかった。


飲み物でも買いにいったのだろうか。


にしても、気付かないなんて、はるるんって意外と影薄いんだね。


「…質問に答えろ」


「あ、うん」


何故逃げたかって?それは、はるるんは何となく分かっていなかったっけ?


「…あの、はるるんから聞いてないですか?」


さくらさんのこと、とか。


「晴?聞いてねぇ」


志貴先輩は、訝しげに目を細めた。


「はるるんから、聞いた方がいいと思いますよ?本人なんかに聞いちゃうと、」


あたしは性格悪いから。歪んでるから。





「自分のいいように脚色しちゃいますよ?」





だって、あたし、不利になることなんて言いたくない。


あばよければ、……なんてこと、いっつも考えてる。


はるるんは何を考えているんだろう。


てっきり、あたしが志貴先輩に近づいた理由を言ってるかと思ってた。


今またさくらさんのことで志貴先輩の心を抉っちゃうようなことをするなんて、タブーだけど。


これを言えば、志貴先輩は分かってくれると思う。


さくらさんは志貴先輩が幸せになることを望んでるって。


けど、はるるんはそう考えなかった。


余程、性格が歪んでいるのか。


「……やっぱ、はるるん苦手だなぁ」


それ以上の価値が生み出せる秘策があるということだ。