晴に助けられ、平常心を得た俺は、また彼女に近づいて、テキストを覗きこむ。


「……どれ?」


そう言うと、彼女は嬉しそうに笑って、一ページ前の問題を指差した。


二次関数の発展問題。


「まず、(1)で求めた式を、使って、……」


「ほうほうほう!」


「よって、最大値gは、…………」


「むっちゃ分かりやすい!ありがと!志貴先輩!」


彼女はお礼を言うと、すぐに次の問題に取り組み始めた。


「晴、その顔うぜぇ」


「やー、照れるなー」


ニヤニヤニヤニヤ。


「殴るぞ」


「やだ照れるー」


何処に照れる要素があんだよ。


「キモ」


「照れるーマジで、志貴クンツンツンデレデレ」


「……………」


無視だな無視。


俺は英語のワークと対峙する。


カリカリカリ。シャーペンが紙を滑る音。


時々、シュシュと赤ペンの丸をする音。


「そうだ、美沙ちゃん」


「何?残念イケメンさん」


「美沙ちゃんにイケメンって言われたーやば、嬉しい」


「残念って、つけたんだけど」


「やだ嬉し過ぎる…」


「用件ないやら、呼ばないで。もうはるるん嫌い」


顔を膨らました彼女はそっぽを向いた。


ぷいっと可愛い効果音が付きそうだな。


そんなことを考える俺は、やっぱり晴並の重症なのだろうか。


「ごめんごめんごめんごめんッ!冬休み遊ぼ!美沙ちゃん!」


彼女は、面食らったように目を見開く。


けど、それは一瞬で。


睫毛が彼女の瞳に影を作った。


似てる。


漠然と思った。


さくらに、似てる。






──『志貴くん。私にこだわらないで、次の恋してね。幸せになってね。これが私の願いだからね』