後ろからくる懐かしい匂い。
春は女物の香水をぷんぷん漂わせていた彼は、今じゃすっかり少し爽やかでどこか甘いそんか香り。
口を大きな手で押さえられているし、がっちり腰に彼の腕も巻き付いてるし、逃げ場はないご様子。
しかも、どさくさ紛れて、後ろから抱きついているようにも思えるようなこの態勢。
あたしを監禁させようとしている犯人は、乱雑に足で第二会議室の扉を閉めた。
目の前には、少し教室より広い第二会議室。
普通の教室の2倍くらいの大きさ、かな。
さすが会議室。……第二だけど。
そんなことを思っていると、口を覆われていた大きな手は退き、くるりと方向転換。
誘拐犯と向かい合わせ。
腰に回る彼の腕はそのまま。
まるで、逃がさないと言っているようだ。
「……久しぶりだねー、美沙ちゃん」
相変わらずだね、その口調も緩さも。
「そうですね、“アサギリ先輩”」
そう言うと、腰に回った腕にもっと力が入った気がした。
「わー、敬語ー。最初を思い出すねー。萌えるねー」
相変わらず変態でおらっしゃるね。
「……何の用、」
敬語もう終わりー残念ー。
彼は残念そうな身ぶりもせず、クククと喉に引っ掻けるような笑いをするだけ。
「……ねぇ、ほんとに何の用なの、」
さすがにこの状況にあたしも苛立ってきて、急かすよう求める。
なんたって、愛しのカナちゃんが隣の部屋であたしが来るのを待っているもの。なんちゃって。
「ねぇ、ほんとに何」
「美沙ちゃん、急に冷たくなったよね」
「…………………」
だって、もう関わりはないんだから、普通じゃん。