「優季くーん。誰これ構わず惚れ込ますのもほどほどにしてちょーだいな。特に果奈とか果奈とか果奈とか」
果奈がいなくなってしまって、教室にいるのはあたしと彼だけ。
ふぅと、果奈が出ていった方にため息を吐き捨てた。
「惚れ込ましたいヤツいるけど、惚れ込んでくれないんだよ。だから、その腹いせに」
どんな理由だし。理不尽だし。
てゆーか。
「優季、好きな子いるの?」
「……………あ」
やらかした、という表情をする彼。
「その子と友達になる!優季の本当の性格を教えてあげなきゃ」
こんな腹黒に騙されちゃうなんて、ダメだ!その子の田舎のお母さんが泣いている!
「……いだっ。何すんの!」
「何すんのじゃないだろ。人の恋愛に入ってくんな」
彼は、でこぴんをあたしのおでこにした。
少し緩めの優しいでこぴん。
そんな優しい彼の表情は、雨の降りそうな曇り空。
「………………」
ズキン、と。
胸がチクチクする。
優季とその子が結ばれたら、優季があたしと居てくれなくなっちゃうかもしれない。
そう思うと、目の前が真っ暗になるような。そんな錯覚を覚える。
好きな子のところにいかないで。
彼に手を伸ばす。
「あたしは、優季しかいないから、…。優季には、あたしはたくさんの中の、一人かも知れないけど…………。いなく、ならないよね?」
優季なんだから、やる気になれば、好きな子なんて落とせちゃう。
「……いなくならないに決まってるだろ」
きゅ、と胸が鳴る。
ひゅっと、喉が鳴る。
掴んだ彼の制服は、シワを寄せていてまるであたしの心の写し鏡。
「ありがと、優季」
「ん。……帰るぞ」
「了解です」
敬礼すると、いつも通りに元通り。
「ではっ!いざ、尋常にこたつを買いせしむ!!」