「優季ー、あたしさー、手袋しちゃってマフラーしにくいんだよねー」


「アントネット・スカーレット・スフィーヌ・ノア・ブリュッセルじゃないのか?」


「……………」


つっこみも辛口。


「そのね、ブリュッセルを首に巻いて欲しいんだよね」


マフ……アントネット・スカーレット・スフィーヌ・ノア・ブリュッセルを彼に差し出すと。


「首絞められたいのか」


まさかの殺人予告。


「優季クン、テスト勉強のストレスをあたしに向けないでください。寝不足なら、寝ればいいでしょ」


「………………マジで嫌い」


ガビーン。


美沙ちゃん、テスト直前にHPが0になりました。


「ううっ……」


目から鱗ならぬ、いろはす。


ちなみに味は、ピーチでもりんごでもヨーグルトでもなく新しい味の塩味。


目から溢れる塩味いろはすを見た彼は、頭を抱えだし、その場にしゃがむ。


ついに勉強のし過ぎで頭が壊れたか。


「…………………」


…どうしよう。


よし、これはスルーしよー。


寒いし寒いし寒いし。


あと、早く知り合いに会って、アントネット・スカーレット・スフィーヌ・ノア・ブリュッセルを首に巻いてほしい。


あと学校まで15分ほどの道のり。


たった15分でもブリュッセルをつけたいと思うのは、あたしのブリュッセルの愛である。


抜き足差し足忍び足。


すたこらさっさとその場を去ろうとしたが、捕まった。


正確には、しゃがんだ優季に足掴まれた。


「転けたら、どーすんの!?」


「ゴリラは転けない」


「ゴリラにだって、間違いはあるから!ゴリラはパーフェクトじゃないから!」


ゴリラを何だと思ってんだ。


ん?あたしはゴリラをどう思ってるかって?


ゴリラは人科ゴリラ属学名ゴリラゴリラゴリラだと思ってるよ。


「優季クン。ずっと、思ってたんだけどね、ゴリラって悪いヤツじゃないの。結構優しいヤツなんだよ?確かに力は強いけどね!暴力沙汰を起こすようなヤンキーじゃないのは確かなの!!」


「……………」


「ゴリラゴリラゴリラ、サイコーッ!!!



ぷいっ。


あたしの熱演は、彼に軽やかにスルーされた。