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「ねぇ、美沙ちゃん。お願いだから、志貴くんの支えになって」


彼女がそういった瞬間、耳を疑った。


「え、?」


「あのね、志貴くんは私の大好きな人なの。私、見ちゃったんだ。志貴くんが、泣いてるところ」


あたしも見たよ。


「自惚れとかかもしれないけど、志貴くんは、私がいなくなったら、壊れちゃう気がするの」


それは、あたしも同感だ。


だって、あの人は、さくらさんが大好き過ぎるもん。


見てるだけでも、よく分かる。


「私は、志貴くんに幸せになってほしいの。私じゃあ、もうそれは無理だから」


「え、…なんでですか?」


質問をすると、彼女の睫毛は伏せて、大きな瞳に影が落ちる。


地雷を踏んだ、直感で思った。



「私ね、もう死ぬの。時間がないの。だから、こうして、美沙ちゃんに頼んでいるの」



人は、死期を悟る。


なんかの小説で読んだ気がする。


「さくらさん、いなくなるんですか?」


「多分ね。私ね、一週間後の自分が想像できないもの」


悲しそうに、彼女は笑ったのだ。


「いやだっ、居なくならないで…っ」


「ふふふ。美沙ちゃんは、いい子ね。さっき会ったばっかりなのに、私の心配をしてくれるなんて」


「…なんで、そんなに諦めているんですか……っ」


さくらさんの言う泣いてまで、自分の死を悲しんでくれる“志貴くん”が居るというのに。


「私は、もう無理なの。実はね、私、病気なの。もう治らないんだって。色々、無茶もしちゃったし、…ね?もう潮時なんだよ」


「潮時、………?」


「そう潮時。私だって、もっと、志貴くんと居たいけど、もう無理みたい」


ぽつり、ぽつり。


雨のように彼女の目から落ちていく。


目の前にいるこの綺麗な人は、もう少しで居なくなってしまうんだ。


そう思うと、あたしの目からも涙が溢れてきて、胸に何とも言えない熱いものが流れてくる。


未だかつてないこの不思議な感情を抑えようと、手に力を込めた。


くしゃり、封筒が苦しそうに鳴く。