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「美沙」
3年校舎から出て、2年校舎へと続く一階の外廊下。
静かにあたしの声を呼ぶのは、聞き馴染みのある優しい声だった。
「優季、」
3年校舎の壁にもたれ掛かっている彼の服はホストのスーツで。
無駄に大人っぽさと色気を出していた。
「お前、これでいいのか?」
優季のいう“これ”。それ以外のものはあったのだろうか。
「これしか、あたしには出来ないもん」
“これ”以外、選択肢はないのだ。
「……どうするんだ?後夜祭」
「帰る。疲れたし、ダルいし」
「分かった。じゃ、俺も帰る」
「…ありがと。今日、ご飯作ってくれる?」
「いつでも、作ってやる」
わしゃわしゃとあたしの頭をなぐさめるように撫でる手は、温かい。
「まず、服、着替えるぞ」
「うん」
ぎゅっ、と彼の手を握って。
「…………っ」
すると、優季は顔をやっぱり赤めらせて、そっぽを向いて。
ぎゅっ、と握り返してくれる。
それが、あたしを必要としてくれているようで、安心する。
たとえ、それが同情の“ヤサシサ”としても。
モロクロ世界に、世界が反転しても。
優季は、必ず手を離さない。
ただ、それがあたしの支えで。
それで、自分を支えて、
あたしは、モロクロ世界に身を投げる。