「目を開けろ」
「ん、…」
さっきの男の声がする。
シンデレラは瞼を開けた。
ヒヒーン、ヒヒーン、ヒヒーン。前方で馬が鳴く音が聞こえる。
「何、…この状態」
真っ白なソファー。真っ白な壁紙。真っ白なテーブル。真っ白なテーブルクロス。真っ白なワイン。真っ白な宝石。
全てが真っ白。純一無雑。純乎たるもの。無垢。純真。
純白な、世界。
シンデレラは、演劇中だということを忘れ、顔をしかめた。
「…おい、なんだその顔は」
「…………あ、うん。ごめん。志貴せん、……魔法使いさん」
魔法使いは深くため息をついた。
「………バカも休み休みにしろ」
魔法使いはシンデレラの頭をグシャグシャと撫でた。
シンデレラは、ぱっと驚いたような視線を彼に向け、気持ちよさげに目を細めた。
「………………」
「………………………」
静かな空気が馬車に流れる。
「……ねぇ、魔法使いさん。いつ着くの?」
「あぁ、そうだったな」
魔法使いは指をならした。
「え、…っ」
渇いたパチンという音と共に、急に白い馬車が消える。
(落ちる落ちる落ちる落ちる!)
シンデレラは、人生2度目の走馬灯を流した。