side.R
「お化け屋敷でーす!20分待ち!」
「焼きそばは向かいの棟の一階だよー!」
「クレープはいかがでしょうか?」
「RPGに挑戦しようっ!場所は第4音楽室!」
甘い匂い。辛い匂い。酸っぱい匂い。
たくさんの香りが入り交じって、なんとも言えない香りのハーモニーを奏でる。
「…来ちゃったなぁ…………」
一人言は祭りの騒ぎに書き消されて、無となっていく。
気合いだ気合い。
けれど、緊張はするもので。
ひゅっ、と喉が鳴った。
「よかったら、1年9組のアリスの巨大迷路へ!」
「あ、ありがと、…う、ございま、す」
トランプ兵に扮した男の子が、あたしにチラシをくれて、颯爽と去っていった。
行きもしないのに、そのチラシを眺める。
「…………お姉ちゃん」
数年会っていない人の名前を呼ぶ。
私は、会いたいわけでない。
たしかに、会いたいけど。
けど、それが目的じゃない。
お姉ちゃんが、幸せなのかどうか知りたい。
ただそれだけを思ってやって来た。
隣の県だったし、交通費は馬鹿にならない。
頑張って、中学生なりにお金をコツコツ貯めた。
廊下の隅で足を止めている私。
目の前で、たくさんの人が行き交う。
「少しだけ覗こっかな」
お姉ちゃん何組だっけ?
あー、そういえば。
それ、聞いてないなぁ。
ちょっと残念。
お姉ちゃんのことだし、多分そこら辺にいる人に聞けば、クラスなんてすぐ分かるだろう。
それだけ、お姉ちゃんの容姿は美しい。
そして、儚くて、脆くて、危うい。