刹那。
目の前の彼の表情が、崩れる。
あたしの大好きな彼の笑みから、泣きそうな顔にすぐに変わる。
まるで季節が変わっていくように自然で切なく。
「ご、めん……」
語尾は小さくなって、床に視線を落とす。
なんと彼に言えばいいのだろうか。
このギュッと胸が掴まれるような、苦しいこの感覚は何だろうか。
悲壮、絶望、恐怖。
出てくる言葉は、あの時感じていた言葉のみ。
戻ることを恐れている。
春に決めたことなのに、心がそれを拒んで揺るぎだしている。
「……………美沙」
優季はくしゃくしゃとあたしの頭を撫でる。
撫でるというよりは、ペットの頭を撫でるような荒っぽいものだけど。
彼の影は、小さくかがんで、あたしの影の隣に膝をつく。
床に座っているあたしに目線を合わしてくれた彼は、また頭を撫で出して、あたしを安心させようとしてくれる。
優季に気を使わせて、バッカみたい。
うつむいていた顔を上げて、優季と視線を絡めると、彼はゆっくり泣きそうに笑う。
「俺はお前がどんなことをしても、お前の味方だ。お前にはお前なりの考えがあって、そう考えていて、それは人のため」
「………………」
「すべての奴がお前を否定しても、俺は絶対、美沙を信じるから。だから、だから、だから……、」
そんな必死にならなくてもいいのに。
やっぱり、優季は優しすぎる。
「……何回だからって言うのさ」
クスッと笑ってみても、彼の表情は変わらない。
あたしは、それでも言葉を続ける。
「男ならシャキっとしなさい、と言いたいけれど。この先はお口チャック」
人差し指で彼の唇を押さえる。
「………………っ」
「お願いだから言わないで。あたしだって、分かってるんだから」
やり遂げたとして。あたしには、何が残る?
もう分かってる。無くなるものも残るものも分かってる。
「……………」
「…あたしが優季にする一生のお願い。お願いだから、
優季だけは、あたしから離れないで」
プロポーズに似たその言葉。
色んな感情が入り乱れる、その言葉は真意。
心からそう思っている。