「志貴先輩えっちーーー」
ツンツン。
彼の腕をツンツンしてみた。
「は?」
「いやー、だってさー?うへへへへへへ。うへへ。うん、…うへへへへ。うへへ」
にやけが止まらないんだけど。
どうしましょどうしましょ。
「美沙ちゃん、気持ち悪いよー」
「いやぁ、だってー」
「じゃあ、俺の食べるー?」
「それは、とても結構です」
バッサリ切り捨て御免。
はるるんと間接キッスするなんて、ゴキブリと間接キッスするのと同等の価値である。
少し根に持ったのかして、はるるんはムスッとして、志貴先輩に絡む。
「志貴、英語はかどってるー?」
「ボチボチ………明日、教えろ」
「分かった分かったー」
のどかだな。平和だな。
秋の風に吹かれながら、芒(ぼう)と感じた。
いつもと変わらない風景で、いつも変わらない会話で。
何故かそれが好きで、毎日して。
大好きで堪らない。
毎日しているのに、まだ足らないと、もっともっとしていたい。
壊れてしまうのなら、作らなければいい。
そう思っていたあの時のあたし。
さくらさんがきっかけとなって、その考えと正反対をやり始めた。
真っ白なあの世界だけしか、見ていなかったあたしは、その世界を崩されないように必死に小さな世界を守っていた。
その世界を壊してくれたのは、紛れもなくさくらさん。
そのさくらさんの願いを叶えたくて、あたしは自らカラフルな世界に飛び出した。
憧れや期待。それに焦がれて、踏み入れたこの世界。
壊れるのを覚悟で踏み入れたこの関係。
あたしには、幸せなんて言葉は無縁な存在。
バットエンドな結末しか、見えなかった自分の人生。
こんな幸せな関係を築いて、それと自分を見比べて落胆し絶望する。
幸せな関係を築かなければ、落胆も絶望もしない。
けれど、そこから見える世界はモノクロ世界。
あたしは、カラフル世界に飛び出して、後悔をしているのだろうか。
胸に手をあて、自分に問う。
「美沙ちゃん、何してんのー。キリストのマネー?」
「あたしは変人か」
「変人だよ。今さら気づいたのー?鈍感ー」
「朝霧晴!タイキック!」
───後悔なんて、していない。…はず。