「そうだ、はるるんたちも手伝ったらいいじゃん。そしたら、あたしと帰れるよ」
「そこまでしてまで、お前と帰りたくない」
「えー、志貴ー。俺は美沙ちゃんと帰りたーい」
「あ、うん。あたし、はるるんはどうでもいいから。志貴先輩だけ残ってくれたらいいから」
「美沙ちゃんの照れ屋ー。俺はそーいうとこ、好きよーん」
「あたしもはるるんのポジティブさ尊敬するわ」
ポジティブ過ぎて、もう何を言い返せばいいか、分からないよマジで。
「…んで、どーするんです?」
「俺は美沙ちゃんの名演技を鑑賞しまーす」
「……………勝手にしてろ。図書室に行ってる」
あぁほんと。どこまでも、優しすぎる。
「志貴先輩、ありがとうございます」
「………………」
「照れ屋ですね、先輩。あたし、そういうところも好きですよ」
「……………」
彼はあたしを一瞥して、くるりと踵を返した。
あーあ、無視されちゃったじゃないの。
美沙ちゃん、悲しいわー。
「……えっと、倉條さん。本当に参加してくれるんですか?」
謎の人Aは、あたしに確かめる。
女には二言はない、って言うもんでしょ?
男も女も二言はないんだよ。
「もちろんです。先輩の名前教えてください」
「小林です」
「小林先輩、よろしくお願いしますね」
こういう文化祭の思い出って、欲しいなぁって、思っていたんだ。
悔いのないように。
あのころに戻りたいなんて、思わないように。
全力で、やり遂げてみたい。
そう思うあたしとは、裏腹に。
緩く緩く鋭く危険人物である彼が、悲しげに瞳を揺らして。
文化祭に覚悟を決めているのを、知るのは。
───全てが崩れたあとのこと。