「ん」
「どーも」
差し出されたカーディガンをぱっと受け取り、カバンを下に置いてから、それを羽織った。
ぬくぬくしてて、温かい。
なんかいい匂いする。
これは、はるるんの匂いだ。
「はるるんって、香水つけてる?」
「つけてないけど」
「いい匂いー。あたし好みー」
「えぇっ、…ちょっ、何っ、……っ」
はるるんって、いつも抱きつくタイミングがアレだったし、匂いをゆっくり嗅ぐ余力がなかった。
へぇ。結構いいじゃん。
「もうあたしから抱きついちゃおっかな」
「ちょ、…何言っ…………っ」
それほど、気に入る匂いだ。
はるるんの匂いは微かなもので、多分抱きついたりしなきゃ香らないほどの微かさだと思う。
まぁそれがあたしのドストライクなんだけど。
「あ。けど、優季の方も負けてない」
いい匂いなんだけど、あやつは半分香水だからね、うん。
「え、橋本優季?」
挙動不審でつっこむとめんどくさそうだったので、無視していたはるるんが急に鋭い視線をあたしに向け始める。
何故にどいつもこいつも優季の名前に反応するの。
そんなに優季って有名人なの?男にも。
ある意味引くんですけど。オエッ。
「優季はどうでもいいでしょ?早く映画映画」
はるるんの裾を引っ張り、奥に向かう。
「あー、うん」
と空返事を彼はして、あたしの後を着いていく。
俺のカーディガン。地味にデカイ。ブカブカ。あー抱き締めたい。あーお持ち帰りしたい。
そう彼が後ろで繰返し言っているのは気のせいだと信じておこう。