「……………ご、めん」


ハヤシライスをパクリ一口。


口の中に甘ったるい味が広がる。


だけど、それをもう美味しいとは感じられない。


「…もう深入りはしないよ」


深入り禁物。親しき仲にも礼儀あり。


「ごめん、だから…………」


嫌いにならないで。


そう言葉を続けようとした。


それは続けようとしただけで続けれず、脳の片隅に溶けていった。


「お前が信じられないってことじゃない」


優季はあたしの口にスプーンをつっこんで、そう言った。


口の中は甘い甘いハヤシライス。


広がるその味は、酷く気持ちとミスマッチ。


「…本当のことを言うと、お前が俺のことが嫌いになるかもしれない」


「………………」


まだスプーンは抜かれない。


つまり、まだ喋るなの合図。


「俺は、………………お前が大切だ」


あたしもそう思ってるよ。やっぱり、あたしたちは相思相愛?


それはただあたしが望んでいたいだけの幻覚?幻?


「これが本心だ」


あたしには、本心だとか分かりっこない。


だって、あたしは優季じゃない。倉條美沙だ。


あたしが分かるのは、優季が優しすぎることだけ。


どこまでが本当で嘘なのか。曖昧な境界線。


どこでライン引きをしているんだろうか。


幼馴染み。


それは近いようで遠い存在。


どこかの本でそう言っていた。


強(あなが)ち間違っていない。


優季は、近いようで遠い。


彼を掴めそうで手を伸ばしても、それはただ空を掴む。