優季に嘘をつくなんて嫌。
だけど、そうじゃないといけなくて。
そうじゃないと時間がなくて。
仕方なくてどうしようもない自分が嫌いになりそうだ。
茶色がかった彼の瞳には真っ直ぐな何かがあって、そらしたくなってしまう。
真っ直ぐすぎて怖い。
ただそれは恐怖とかじゃなくて、ただの憧れ。
真っ直ぐな彼を見て、そうでありたいとあたしは願う。
だけど、それは叶わない。
そして、自分に失望する。それが怖いんだ。
自分というものの存在意義がなくなるのが。
真っ直ぐな彼の瞳に写る歪んだ自分を見るのが怖い。
「……カナちゃんのこと?」
カナちゃんカナちゃん。
あぁ。ほんと何でこんな呼び方をしなければならないわけ?
気持ち悪い以外言いようがない。
あの不良面の教師をカナちゃんだよ?
マジで鳥肌モンだ。
「お前、何で懐柔されてやがる」
「え、そこが疑問だったの?」
あたし、あの教師と何話してた?と聞かれると思ってたんだけど。
そっちなの‼?何故にそっちなの‼?
ん?…分かったよ分かった!
分かったからには、優季に言葉をかけなければ。
勘違いをしてしまう。
「大丈夫だよ」
あたしは優季の瞳を真っ直ぐにみる。
茶色がかった瞳は今日も真っ直ぐで綺麗である。