side.Y


油断した。


あのバカがまさか教室まで来て、美沙を誘いに来るなんて…。


話は全て俺からするとバカにも美沙にも伝えてあるはずだ。


始終八苦、食べ物でアイツを釣ったんだろう。


アイツらは、確か入学式の日に1回会っただけ。


2回目のはずの対面がこんなに上手くいっているのは、多分あの教師の人柄だろう。


あんまり会わせないようにしていたのに。


「……………」


さてさて、どうやって美沙を取り戻そうか。


RHLを抜け出すのは決定だな。


しかし、問題は抜け出したあとの、あのバカから美沙を奪還することである。


「先生」


とにかく、まずRHLを抜けなければ始まらない。


がたん、と席を立つと、それに続き大量の席を立つ音が鳴る。


「体調が悪いので、保健室に行ってきていい」


「えーじゃあ、私が橋本くん置いてきます!」

「私よ!その役目は!」

「私が一番かわいいから私よ!」


何事にも熱心に、という学校の風習に慣れてきたのであろう。


さすがである。恋にも積極的になってきた。


けれど、それは今は邪魔以外にならなくて。


少し面倒だと思い、眉間のシワを寄せたが、すぐさまもとに戻す。


「いや、いいよ。皆の手を煩わせたらいけない。それに、もし風邪だったら移ったら大変だよ」


「「「あ、……はい……♡」」」


美沙もこんな感じに反応してくれたら、いいのに。


やっぱりそう思ってしまう俺は、まだ兄になりきれていないのだろう。


俺は急いで、教室をあとにして、保健室に向かった。