コイツは気付いているのだろうか。
晴の気持ちに、俺の気持ちに。
あの橋本優季の気持ちにも。
気付いているのだろうか。
「なぁお前。俺のこと、諦める気はねぇのか?」
「あるわけないじゃないですか」
にっこりと笑顔付きで即答された。
「……………」
ゆらりゆらり、揺れて。それはまるで炎のよう。
いつも、コイツの目はこんなんだ。
芯を、己を持っているのに、何を思って心が揺らいでいるのだろうか。
それが不思議で堪らない。
多分、それはどうしようもないこと。
ダメだとか、分かっていても、しなくてはいけないような、そんな事だろう。
コイツはいつもバカやってるが、本当にバカなわけがない。
正しい判断が出来ているに決まってる。
多分、彼女のこの瞳。
その瞳の揺らぎが彼女の秘密の鍵。
彼女の中にある、“ダメだと思っているがやらなくてはならないこと”の鍵。
本当にそんなものが彼女の中にあることは憶測でしかない。
しかし、彼女には“秘密”がある気がする。
とっても大きな、悲しい秘密が。
「……………謎多き奴がミステリアスでカッコいいとか、思ってる奴がいるよな。どちらかというと俺はミステリアスな奴は嫌いだ」
「どしたの、志貴先輩」
「……………別に」
はいツンいただきましたー、という彼女にはやはり笑顔。
その表情の裏の感情は何を思っているのだろうか。